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クワイエットルームにようこそ
クワイエットルームにようこそ_b0026230_23151666.jpg松尾スズキ・著。

今更かよ、的な読書をしているのは毎度のことです。読まないよりゃよかろうも。

松尾スズキの小説を読むのは初めてです。エッセイとか日記とかコラムとか、そういうのは ちょこちょこ読んでいるのだけど。
読書強化月間をはじめるキッカケとなったのが彼の「ギリギリデイズ」で、そこに描かれるウツ具合に少しばかり共感する表現が多かったので、それ以来 松尾さんの書く文章には敏感になっていたりする。
意外と小市民なところが可愛い人だと思う(恐れ多い・・・)。


オーバードーズ(薬の飲みすぎ)で精神病院の閉鎖病棟にぶち込まれた女の一人称。
短くて、さらっと読めるが自分の気分次第で結構ヘビィなものにもなると思われる。
語り口は軽妙。
それでいて もの悲しい。

同棲相手と喧嘩して泣きくれながら精神安定剤を致死量を越して飲み過ぎて、救急病院に運ばれて そのまま入院、そこで出会った色んな風に心の壊れちゃってる駄目な人たちとの交流。
もともと自殺願望のある人間ではない、つまり「精神病患者ではない」人間の視点で描かれる精神病院。
その視線はいたって「普通の人間」(=健常者?)に近くて、冷めてて上から見下ろしている。
世界観は非常にクリア。ドロドロしてても訳が分かる。余剰がない、感じ。
だから苦痛はそんなに伴わない(人によるかな)。

でもホントはこっちの人かあっちの人か、そんなんは紙一重で、それこそ輪っかになっててなんかの拍子に簡単に向こう側に行っちゃうんだろうな人間なんて、と思う。
境界線は限りなく曖昧で不透明で万人共通のレベルなんてものもなくて片足 突っ込んでるような人もきっといっぱいいる。
ある意味では、自分も彼もあの子もみんな、そんな状態かもしれないって言ったらそうだし。

みんながみんな、そういう認識を持って生きてたら、もう少し、世の中ってヤツは優しくなるのかもしれない、と思う。
相手の弱さを受け止める広さ。
でも、弱さを容認したら、きっと民族として国として、弱ってしまうんだろうなとも思う。

理想の世界、てのは難しい。
ユートピアを思い浮かべる時、今はかつてよりよっぽど、みんなで一緒のビジョンを持つことが困難になっているのだろうと思うよ。
だから、作家や芸術家や文化人でなくてもタダの人でも、心が壊れちゃったりするんだろうよ簡単に。
ひどく、生きにくい現世の断片を描いてる、そういう作品。
by ling-mu.m | 2006-07-31 23:31 | 活字/漫画
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