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シェリ
b0026230_0344329.jpgコレット・作
工藤庸子・訳

授業の課題図書として読んだら、なかなか面白かった作品。
ホントは発表課題の川端康成「山の音」を読まなきゃいかんのだが、それそっちのけでハマってしまいました。
まぁどっちも冬休み中の課題だったんだけどね。買ったの学校 始まってからだしね。









非常に読みやすい文章です。フランス文学。
海外小説、しかも古い(1923年)作品なので、やはり登場人物が饒舌です。
でも「喋りまくり!」という程ではない。

主人公は裏社交界で娼婦をしていたレアという女性。まもなく五十歳。
彼女には二十四つ離れた二十五歳の恋人がいて、シェリ(愛しい人)と呼び、可愛がり育てて来た。
しかし、シェリが結婚をすることになり、二人は六年間の関係に終止符を打つことになる。
訪れた別れに、お互いに平気な顔をしながらも心底では深く傷ついた二人。
レアは独り旅に出、それを知ったシェリは荒れて家出をし遊び歩く日々を送る。
半年後、レアはパリに帰って来て、シェリと再会を果たす。
それは、離れてみて初めてお互いの大切さ、愛おしさを痛感した二人の、新たな始まりのように思えた。
しかし、朝日の中でシェリは見るのだ。レアの、寄る年波には勝てぬ、衰えた肉体を。

最高級の娼婦として人生を過ごしてきたレアは、流石に逞しく豪気な女性です。
プライドも高いが懐も深い。豊かな財政で優雅な暮らしをし、年をとっても尚美しく、若々しい人。
同じ職で昔なじみの女が産んで産みっぱなしにしていたがためにとんだ放蕩息子に育ってしまったシェリを、手篭めにして猫っ可愛がりする。
逆光源氏のような関係。
シェリ(どうしてもシャリと打ってしまう・・・)は、飼い慣らされない自由奔放さを見せながらも、その実、彼女にどっぷりと甘やかされ、いつまでも無知で愚かでワガママな男のままでいる。
シェリはそれを自分で選びとった道のように考えているかもしれないが、レアにとっては、自分がそうさせてやっているんだ、という誇りや自信に繋がっていただろう。
いつまでも自分の元にいる、可愛いペットだと思っていた男が、しかし突如 去ってしまう。
取り乱す訳にはいかない、余裕がないところを見せてはいけない。
そうは思えど、彼女の心は素直だった。
シェリが離れて行ってしまえば彼女の心は途端にくずおれ、とても彼が新婚生活を送る傍にはいられなくなる。
そうしてレアはパリを去り、そのことで、シェリもまた初めてレアを心底から求めていた自分に気付く。
この辺りのシェリは非常に可愛い。大体にして只の馬鹿な男なのだが、ここに関してはその弱さに可愛さを見出せる。
妻が頭痛を訴えた時、彼は思わず言ってしまいそうになるのだ、
  「待ってろ、泣くなよ、今ヌヌーン(レアのこと)をつれてくるから、
   そうしたら治してもらえるから・・・・・・」
レアを頼りきっていたシェリ。
レアを母親のように慕っていたシェリ。
レアの敗因はそこだった。
シェリにとって、レアは恋人である前に母親だったのだ。
父親は何処の誰とも知れず、子を生んで尚遊び歩く母親にはロクに育てられず躾もされず(彼は幼い頃、空腹で胃痙攣を起こした経験を持つ)、だから彼は親の愛情というものを知らない。
そんな彼に寛大な優しさと慈悲を見せてくれた女、それがレアだった。
シェリはきっと包み込まれる愛に飢えていた。それを与えてくれる人がレアだった。
しかし、子はいつか親の元を巣立たねばならない。
シェリもまた然りだ。

レアと再会を果たしたシェリは、朝日に晒される彼女の身体に醜さを見出す。
肌や皺、今までは愛しいと思っていた様々が、醜悪に見えてたまらなくなる。
そこで彼の心はきれいな下降線を描いたのだろう。
そして、朝食における彼女のパンを食べろとか下剤を飲めとか言う小言が、決定打となる。
息子は、母を煩わしく思ったのだ。
そしてシェリはレアに別れを告げる。
愚かな少年は、やっと まともな大人への一歩を、そこで踏み出すことになるのだ。

レアの失恋物語であり、シェリの自立物語でもある。
二人以外の登場人物もなかなか魅力的です。
特にシェリの奥さんになるエドメが好き。
レアの存在に嫉妬し不安になりながらも、またシェリの傲慢さやワガママに不安になりながらも、気丈に耐えて逃げ出さない。
レアとは違った形で、この子もまた強い少女です。
若さという味方が在るのが大きいのかもしれない。まだ十九歳ですから。
願わくば、彼女の元に戻ったシェリが、幸せな家庭を二人で築きますよう。
レアが幸せになることは、きっともうありえないだろうから。
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by ling-mu.m | 2006-01-14 01:24 | 活字/漫画
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