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贋作・罪と罰
今年最後の観劇でした。
Bunkamuraシアターコクーンにて、NODA・MAP第十一回公演「贋作・罪と罰」。
浮島になっている舞台を二階から見下ろす席でした。役者の表情も見えたし見切れるところもないし、悪くない席でした。コクーンはどちらかと言うと嫌いなハコなんですけれども。
2階B列20番に座って身を乗り出し続けたオバサンは、いつかその頬を張らせてください。

客席の間に四角く舞台が作られた、変形型のお芝居。円形劇場の豪華版みたいな。
舞台の四方には椅子が並べれている。大抵が焦げ茶色の木らしき椅子で、中にはポップな色がついた物もある。デザインは様々。

暗転はなく、客電がついたまま、金貸しの老婆とその妹が入ってくることでお芝居は始まる。

タイトルが示す通り、ストーリィはドストエフスキーの「罪と罰」に由っている。
時代は幕末、所は日本。
主人公は江戸開成所の女塾生・三条 英(松たか子)。
非凡人が思想のために犯す殺人は許される。そう考える英は、計画的に金貸しの老婆を斧で殴り殺す。しかし、偶然そこに居合わせた老婆の妹をも手にかけ、彼女は苦悩する。
それでも、証拠隠滅を図りその場から逃走、自らが犯罪者であることを隠し通そうとする。
彼女の友人であり、英の犯罪を知ると自主をうながす男・才谷 梅太郎(古田新太)。
次第に英へその疑惑の目を向けていく担当捜査官・都 司之助(段田安則)。
日々の生活に飽き、時代が動く事件を心待ちにしている富豪・溜水 石右衛門(宇梶剛士)。
英の母(野田秀樹)、妹(美波)、父(中村まこと)、幕府転覆を狙う志士たち。
激動の時代の只中に立ち、その波に飲み込まれながら、英が行き着くのは天国か、地獄か?

意外にも休憩なしで二時間。
くるくると動き回る登場人物のおかげで飽きることはありませんでした。
役者は袖に引っ込むということをあまりせず、舞台外に並べれた椅子(どれも舞台に向かっている)に座って、観客の一部になったように座っていることが多かったです。
そこにいるのといないのとでは意味合いが違うのでしょうが、その法則性は見つけられませんでした。

椅子は小道具として盛んに使われてました。
噺家の使う扇子のような、何かひとつを色んな物に見立てるということが、野田さんは本当に上手だと思う。「赤鬼」各国バージョンの演出にはぐうの音も出ませんでした(特に日本のが好き)。
触ると光る(タッチセンサーかな)棒やぷちぷち(エアクッションというのか・・・梱包で使うヤツ)など、他の小道具もいちいち面白い。
舞台外の椅子に座っている人が効果音を出すやり方も、古典的な道具を使いながらわざわざ見せる所が遊んでるなぁと。
自由ーに作っている感じが、たまらなく好きです。気持ちがいい。

松たか子は「オイル」に続いてのヒロイン、格好よくて愚直な女塾生を、見事に演じていたと思います。
舞台の松の演技は真っ直ぐですごく好き。
棒読みか? とも取れる独特な台詞の吐き方が、富士にも英にもとても合っていると思う。

原作に忠実に、英は親友・才谷の言葉に従い、「十字路にひざまずき、大地に接吻をし、四方に向かって自らの罪を告白」する。
そして遠い雪国へと送られ、罪人としての償いをする。
彼方で待っている才谷を思いながら。

今回はラストの英の台詞に、危うく泣かされそうになりました。
頑なに頑なに自分を守ろうとしていたエリィト意識高々の彼女が、心を許しその言葉に従った彼方の人・才谷への手紙。
しかし その言葉は彼に届くことはなく・・・一度この戯曲を読んでいたので、最後どうなるんだっけーと思い出そうとしながら観ていて結局 思い出せず、英の父が彼に切りかかった所で、あーそうだ奴は坂本竜馬だったんだ、と史実を思い出して何とも言えない気持ちにさせられました。
でも、野田作品にしては何と言うか、光のある終わり方ではないか、という気がする。
暗転していく中で英の顔が静かに堅く歪んでいく様を無視しているかもしれない解釈だけれども。
それでも英は生きていくのではないか。新しい、明治という時代を。

古田新太が才谷かーどんなんなるんだろうと思っていたけど、意外に彼らしく演じていた。
と言うか、私の中で才谷が相当「イイオトコ」キャラに塗り替えられていたため、想像がつかなかったものと思われる。
金の亡者、という設定がすっぽり抜けていた。それが投じられるだけで、古田演じる色男に違和感がなくなるとはこれ如何に。
いや、でも結構 寡黙で、ダークっぽい しっとり系ヒーローだったから、やっぱりいつも彼が演じるような役ではないよね。

小松和重さんは緑のジャージが映えてて素敵でした。あの顔が好きなんだよねぇ。ふふ。
宇梶さんは不気味な役どころで。ちょっと声がこもり気味なのが気になりました。あと、すっっっごい残念だったのが、婚約者の智(英の妹)が彼を撃てず、部屋から出ていかせようとする時の「早く・・・早く!」の台詞が、完璧に流れてたこと。一回目の「早く」を聞いて智が動かない時、二回目が来るなと思うのはまぁ当然だしそこが読めるのは普通だろう。で、二回目が段取りになってたら嫌だなー流さないでよー宇梶さん、と祈るように思ってたのに見事に流れちゃって、すごいガッカリした。そこは役者魂 見せてくださいよオジサン・・・。

野田さんは相変わらずきぃきぃと元気で。楽しませてもらいました。
いつも母親とかおばあちゃんとか、女役やるのが好きだからかな。こだわりがあるのかな。自分が描く年増女像に。
智も阿呆っぽくて英といい対比になってたと思う。野田さんともいいコンビで。

衣装は英のが素敵でした。殺人を犯すまでは黒。そのあとは赤。返り血を浴びたイメェジなのかな。一度 汚れたらその罪は消えないということか。英は逃げていたから尚更だね。
足元がみんなアディダスかナイキの黒いスニーカーなのは違和感っちゃ違和感。草履を履けとは言わんが、意味合いはあるのかな。どっかで知れたら知りたいです。

初演時は、幕が上がる10日前ぐらいに地下鉄サリン事件が起きたらしくて、そこにばかり持っていかれたのはこの作品の不遇だった、と言う野田氏の言葉が、あちこちに書かれてますね。
確かに、あの事件の直後に思想で犯される殺人はアリかナシか? みたいなこの芝居を観たら、そんなこと言ってバカジャナイデスカ! と熱くなるばかりかもしれない。

十年たって、この国では思想で犯される殺人は遠いものになった、ホントはまだあちこちで行われているのに、というようなことを氏は言っておりますが、確かに「思想」という名のもとに人が殺される時代ではない・・・のかなぁ。
そういうのは、それこそ氏が目の前で人が殺されたと言う、全共闘時代がピィクだったのではないか。
そういう、良くも悪くも「元気」な風潮は、もはやこの国には一切 残っていないと思う。
あったとしても、その火はもう随分と小さく小さく、くすぶるばかりになっているのだと、私は思うのだけれども。
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by ling-mu.m | 2005-12-28 23:53 | 芝居/舞台
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