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近代能楽集
久し振りの芝居鑑賞は、初めて訪れました彩の国さいたま芸術劇場にて、「近代能楽集」を。
言わずと知れた三島由紀夫の戯曲を、蜷川幸雄の演出で上演。蜷川演出での初演は1976年というのだから大した年季のいりようですね。勿論 同じ演出をしているとは思えませんが(実際どうなのかしら)。
演目は、アタシの好きな「卒塔婆小町」と藤原竜也主演の「弱法師(よろぼし)」。
広告は藤原竜也おしまくりっつーかむしろ彼だけを特化して行われてる感があってどうなのとは多少 思う。アタシもそこに惹かれなかった、と言えば嘘になるクチですけれどもね。

「卒塔婆小町」は、老婆に壤 晴彦、詩人に高橋 洋の二人。

乞食の老婆が男女の集う夜の公園でシケモクを拾ってる所へやって来た売れない詩書きの青年。自分は美しい、自分を美しいと言った男は皆死んでいった、と言う老婆に興味を持ち、八十年前の話を請う。老婆が、二十歳の頃、深草少将の百夜通いの最後の日のことを語りだすと、そこはうら寂しい公園から、華々しくワルツの鳴り響く鹿鳴館の庭へと姿を変えた。

壤氏の演技には圧巻。老婆の姿のまま、腰がしゃんと伸びて声が凛として乙女にかえるのだけど、その笑顔の美しいことと言ったらない。
男からも女からも綺麗な人と持て囃された、彼女が一番 幸せだった時代。
過ぎ行く年月が、容赦なく彼女からその美貌を奪っていく。その経過や悲しみは直接には書かれていなくて、でも、耐えがたい苦痛と恐怖の時期は必ずあったのだと思う。それはこのうえのない辱めであった筈で。
九十九歳の老婆となった今ではあの頃を懐かしむばかりで、嘆く姿は見受けられないけれども。

若草少将に扮した詩人は、幻の中で演ずるうちに醜い老婆を乙女と見、禁断の言葉を口にしようとする。老婆は必死でそれを止め、抗い拒む。かつて当たり前のように降り注がれていた言葉を。
しかし愚かで若い詩人は言ってしまうのだ、美しい、と。
そうして、例外となることなく死に身を沈めていく詩人。
その屍に背を向けて、老婆はまたただの乞食にもどり、幕は閉じる。

詩人役の高橋氏は、結構 いい演技をするくせに時々 下手っぴぃで、何だか勿体ない人でした。たまの台詞が何かすごいくさく聞こえるの。くさい台詞でも何でもないのに。
東京オレンジ出身なんですね。堺雅人と同期ぐらいなのかな。

舞台セットがこれまた美しかった。
舞台の額縁に沿って薔薇の樹が巡らされ、舞台奥にも薔薇の木々が植えられ、その前に並べられた5つの白いベンチ。
そして、芝居中に絶え間なく降って来る薔薇の花。花びらではなく、椿みたいに茎がついた花ごと落ちてきて、軽いいい音のリズムが芝居を引き締める。
蜷川さんは「幻に心もそぞろ狂おしの我ら将門」でもレンガを落とす演出をしていて、どうしてもそれとかぶってしまった。レンガは全共闘時代の暗示だったから、十中八九 関係ないとは思うんだけどね・・・。


「弱法師」は、文句は言いつつもやはり藤原竜也の色気にやられた感じですかね。悔しいけど。
意外に背が高くてビックリした。前に筒井道隆 見た時にも思った。映像には惑わされますな。

一人の青年を巡る調停を行うための家庭裁判所の一室。調停員をはさんで、二組の夫婦。川島夫妻は青年・俊徳の養父母。他方、高安夫妻は俊徳の実父母。
空襲から逃れる際に両目を炎で焼かれたため盲らとなり、家に帰ることができなくなって浮浪児と化した俊徳を川島夫妻が拾ったのは十五年前、彼が五歳の時のことだった。

おそらく、俊徳の身柄を返せと言う高安夫妻の要求により起こった調停の場面なのでしょう。
ひとしきり両家が言い争ったのちに藤原 演じる俊徳が登場する訳だけども、それが客席通路を通って降りてくるのね。ゆっっっくりと。
それっていうのは三島の戯曲には書かれていなくて、でも結構いいな、と思った。じれったいぐらいに悠々と階段を下りてくる青年。彼を見つめる初老の大人たち。
上下 白のスーツに水色のシャツ、ネクタイに丸い黒眼鏡。靴も白。演技も台詞もねっとりしている分、衣装は爽やかにしたのでしょうか。

こっちは、とにかく三島の書いた言葉の美しさに圧倒されました。盲らであるために(とは川島氏の言ですが)狂気を持ち合わせる俊徳の独白が終わり近くにあるのだけども、もうね、聞き入ってしまうよ。
藤原竜也が色気プンプン振りまきながら言うのね。息を呑んでしまうよ。ホントに。

三島由紀夫は確かに巨匠だ。そう思わせる作品でした。


絶対 周りに何もなくて劇場への行き方とか矢印で示してあるだろうし地図なんか要らねぇや、と強気な態度で行ってみたら案の定そんな感じで、迷うことなく辿り着けました。
さいたま芸術劇場 自体がデカい施設で、大ホールも劇場としては中ぐらいなのかな。確か800席弱かと。今回は奮発してS席で観たんだけど(いちまんえん。)、後ろの方でもそんな遠くはないんじゃないかな。座席は、縦も横もかーなり狭い。ま、仕方ないね。

平日の昼間で、あとは演目と藤原効果なのか知らんけど、客は九割が女性でした。おばちゃん率高い。帰り道、みんな駅に向かう訳だけども、女の集団が道の両岸をすごい人数で歩いてく光景はすごい気持ち悪くて、何かの宗教かよ、て感じで、すごい嫌でした。
隣に座ったおばちゃん二人組も うっとおしかったな。始まってんのに鞄ごそごそやってオペラグラスとか取り出してるし。ケータイの電源切らないで、いいわよね着信してもブーブー言うだけだしとかほざくし。それが迷惑なんだっつーの。常識ないなぁ。
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by ling-mu.m | 2005-06-09 01:21 | 芝居/舞台
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